2011年9月9日金曜日


:植物工場

アルミ加工技術を生かし植物工場を低コストに 新産業としての植物工場(1)

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2010/6/11 9:00

図1 元気村内にあるアルミスの植物工場  多段式の棚に並んで栽培されているレタス。
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図1 元気村内にあるアルミスの植物工場  多段式の棚に並んで栽培されているレタス。
外界とは隔離された空間で、光や温度、栄養分を制御しながら農作物を育てる「植物工場」。ここ数年、国による補助金などの支援が盛んだったこともあり、農業とは無縁だった異業種から植物工場の建設や野菜の生産・販売事業に参入する企業が相次いでいる。
植物工場には、天候に左右されずに安定的に野菜などを生産でき、生産に広い土地を必要とせず、例えば都心のビルの中や工場の空きスペースなどにも設置できるという特徴がある。環境を最適に制御することで、作物に含まれる栄養価を高めることも可能だ。
こうした植物工場の盛り上がりを見て、工場向けの照明機器やセンサ、制御機器などを手掛ける生産設備メーカーも活発に動き始めている。現在、国内だけでも既に50カ所以上の植物工場が稼働しているといわれており、国はその数を3年で3倍にすることを目標として掲げている。また、植物工場設備の海外輸出も始まった。
ただし、現状では課題もまだ多い。中でも大きな課題が、植物工場を建設する際の初期投資額の高さである。償却費の負担が重くのしかかって採算がとれず、撤退に追い込まれたという事例もある。そこで本連載の第1回である今回は、植物工場の低コスト化に向けた動きを追うことにした。安価な植物工場システムを開発した、アルミス(佐賀県鳥栖市)の例を見てみよう。
廃校の木造校舎を利用
佐賀市郊外の山中、廃校になった木造小学校の一角に、レタスやバジルなどが青々と茂った水耕栽培の棚が並ぶ教室がある(図1)。アルミスが開発した、植物工場システムの実証実験場だ。それは、同社が運営する、廃校を再利用した農産物の直売所「元気村」の一角にあり、直売所で売るレタスを栽培しているほか、さまざまな野菜を実験的に育てている。
同社は売上高20億円強、従業員数40人ほどの中堅企業だ。主力事業は3つある。アルミニウム(Al)合金の押出し型材などの製造販売を行う「アルミ事業」と、Al合金を使った農業用の部材などを手掛ける「農業資材事業」、ホテルや宴会場用の備品を製造販売する「ホテル事業」である。
そこに今回、新たに加わったのが、植物工場ビジネスを手掛ける「アグリ事業」である。上記の廃校内に構築したような水耕栽培施設をベースに、栽培室、育苗室、出荷室、照明、空調といった一連の設備を備えた植物工場システム「野菜のKIMOCHI」を開発した。本格的な販売はこれからだが、初年度(2010年度)に5億~6億円を売り上げたいとしている。
図2 標準的なシステム構成の「野菜のKIMOCHI-120」  上下6段の棚20台で、3840株の栽培が可能。照明や空調を含めて、システムコストは1400万円程度となる。
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図2 標準的なシステム構成の「野菜のKIMOCHI-120」  上下6段の棚20台で、3840株の栽培が可能。照明や空調を含めて、システムコストは1400万円程度となる。
もうかる植物工場を造る
アルミスの植物工場システムの最大の特徴は、導入コストが低いことである。一般に植物工場は、内部をクリーンルーム化した上で、コンピュータによる自動制御など高度な管理システムを備えるものが多い。ただし、それには相応の設備が必要で、初期投資がかさむ。必然的に作物の栽培コストを押し上げ、採算をとるのが難しくなる。企業や農家が導入に二の足を踏む大きな理由は、この高コスト構造にある。
だが、野菜のKIMOCHIは、6段×20台の栽培棚を収めた栽培室と育苗室、出荷室に照明や空調、液肥管理装置などを加えた標準的なシステム「野菜のKIMOCHI-120」で、約1400万円(運搬、据え付け費用は別)である(図2)。数千万~数億円というのが植物工場の相場であることを考えると、かなり安い。
これなら、初期投資は比較的短期間で回収できる。試算してみよう。KIMOCHI-120でレタスを育てた場合、最大3840株の栽培が可能で、1カ月に2回収穫できる。実際に商品になる割合(商品率)を85%とすると、1日当たり220株弱を収穫できる計算だ。同社の計算では、電気代や人件費などのランニングコストは1株当たりおよそ53円であり、これに40円程度の利益を乗せて販売すれば、理想的には6~7年で初期投資を償却できる計算となる。もっと大きなシステムなら、さらに短期での回収も可能だろう。
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