:植物工場

コンテナ式植物工場、カタールへ 新産業としての植物工場(3)

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2010/6/25 9:00
畑で作る野菜と競争しながら作物を生産する事業者が、植物工場システムにまず求めるのは、まず導入コストやランニングコストが低いことである。こうしたニーズをくみ取った開発が今、急速に進んでいることを本連載の前回や前々回で紹介してきた。しかし、目を転じて海外への輸出を考えてみよう。海外では、天候などの影響で「畑で野菜を作る」ということ自体が困難な地域がたくさんある。そうなると、植物工場システムの魅力として、天候に左右されないという特徴がグンとクローズアップされてくる。
実際、こうした特徴がウケて植物工場システムを輸出する例が出てきている。例えば三菱化学は、中東のカタールの食品関連企業に対して、コンテナ型の植物工場システム「コンテナ野菜工場」を輸出する契約を結んだ。既に現物は完成しており、あとは出荷を待つばかり。2010年のラマダーン(いわゆる断食月)は9月9日が最終日だが、これが明けてから現地にコンテナが到着し、実際に野菜栽培が始まる予定だ。
図1 コンテナ野菜工場の内部  コンテナ中央の通路を挟んで、両側に4段の栽培棚を設置する。
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図1 コンテナ野菜工場の内部  コンテナ中央の通路を挟んで、両側に4段の栽培棚を設置する。
コンテナの中に栽培システム
同社がカタールへコンテナ野菜工場を輸出する具体的なきっかけとなったのは、2009年1月にアラブ首長国連邦(UAE)で開催された展示会「World Future Energy Summit 2010」だ。同展示会に三菱ケミカルホールディングスとして、コンテナ野菜工場のカットモデルを出展したところ、大きな注目を集め、具体的な商談へとつながった。
三菱化学が輸出するコンテナ野菜工場は、いわゆる40フィートコンテナ(外形が長さ12.2×幅2.4×高さ2.9m)の中に、4段×2列の栽培棚と空調設備、水処理装置などを組み込んだもの(図1)。栽培用照明としては蛍光灯型LED(発光ダイオード)照明と蛍光灯を併用し、屋根には太陽電池パネルを取り付けてある。
コンテナ野菜工場は、温度や湿度、光を外界とは切り離して制御/管理する、いわゆる閉鎖型の植物工場だ。もちろん、外部からある程度の水や電力を供給する必要はあるが、中東のように厳しい環境でも野菜を栽培できるのは大きなメリットとなる。また、コンテナという規格化された形状なので、輸送や設置が容易というのも利点だ。
三菱化学は輸出に先立ち2010年2月から5月にかけて、茨城県内の同社敷地内にコンテナ野菜工場を設置し、実際にコンテナの中で野菜を栽培するランニングテストを実施した。生産される野菜の品質や収量を確認するためだ。品種にもよるが、1株70~100gの葉物野菜を約30日かけて栽培し、1日当たりでは50株以上の野菜を収穫できたという。
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集:植物工場

コンテナ式植物工場、カタールへ 新産業としての植物工場(3)

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2010/6/25 9:00
 コンテナ野菜工場の価格は、太陽電池パネルなどを除いて5000万円ほど。日産50株、月に約1500株という収量を考えると、日本における野菜の価格で計算すると初期投資はかなり大きい。しかし、「高いときでは200~300gの野菜が1500~1600円くらいする」(同社)という中東の事情を考えると、新鮮で安全な野菜という付加価値も含めて、植物工場システムを導入する意義が十分にあるようだ。
太陽光発電パネルも設置
図2 コンテナ野菜工場の外観  側面には、コンテナ野菜工場を構成する機器や技術を提供した企業名がずらりと並ぶ。
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図2 コンテナ野菜工場の外観  側面には、コンテナ野菜工場を構成する機器や技術を提供した企業名がずらりと並ぶ。
 コンテナ野菜工場の全体を統括し、販売するのは三菱化学だが、同工場を構成するのは、複数の日本企業が提供する優れた機器・技術である。例えば、工業用照明メーカーのシーシーエス(本社京都市)がLED照明を提供し、同社の子会社であるフェアリーエンジェル(本社京都市)が植物工場システムの設計技術と栽培ノウハウを提供した。このほかにも、断熱材は三菱樹脂、水処理装置は日本錬水、コンテナは日本フルハーフ(本社神奈川県厚木市)、太陽光発電パネルやリチウム(Li)イオン2次電池は三洋電機といった具合に、多くのメーカーの製品や技術が集約されている(図2)。
 太陽電池パネルはコンテナの屋根のほぼ全面を覆うようにして設置してある。しかし、これだけで植物工場に必要となるすべての電力をまかなえるわけではない。電力は照明だけでなく空調でも消費されるが、「ランニングテストの結果では、太陽電池による発電で照明で消費する電力の数十%はまかなえた」(三菱化学)という。日照条件が日本よりも良い中東ではこの割合がもっと高くなる可能性がある。今回、コンテナ野菜工場の受注が決まった1つの要因としては太陽電池パネルの存在があったそうで、電気代が安いとはいえ、省エネルギーに対する意識はかなり高いようだ。
 植物工場の輸出先は中東だけに限らない。三菱化学は植物工場システムの輸出について「世界各国の10数社と具体的な商談を進めている。引き合いはかなり多い」という。コンテナ野菜工場のような小規模な工場だけでなく、日産数千株を超えるような大規模な植物工場システムについても、海外でニーズが高まる可能性は十分にある。そこで活用される機器やノウハウなどを提供する事業に取り組む企業は今後も増えていきそうだ。
(日経ものづくり 中山力)
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