手作り野菜工場で“世界レベル”の超効率経営

食料危機は最大の好機――今こそ作れ、儲かる農業(5)

2008年8月5日(火)
1/3ページ
印刷ページ
 「植物工場」の経営に乗り出す企業が増えている。福島県白河市にあるキユーピーの植物工場。ここでは、年に164万株(サラダ菜換算)のレタスやサラダ菜を出荷している。同じく茨城県土浦市や兵庫県三田市の植物工場でレタス類を生産しているJFEライフも、土浦工場の増設を決めた。ベンチャー企業や外食企業の参入も相次いでおり、植物工場普及振興会によれば、全国に30カ所の植物工場が存在するという。
 光や温度、二酸化炭素などを管理し、通年での野菜栽培を可能にする植物工場。路地栽培とは違って天候に左右されないため、年間を通して安定供給が可能だ。さらに、農薬を使わずに無菌状態で野菜を作ることができる。「安心」「安全」「安定供給」を求める外食業界や食品加工業界のニーズは根強い。
 農業関係者が関心を寄せる植物工場。実は、千葉県船橋市に少し変わった工場がある。光や温度を完全制御する大規模工場ではないが、独自に開発した自動化ラインなどによって「ミツバの18期作」を実現している。その生産性の高さは、世界的に見ても競争力があると言われるほど。この工場を作り上げたのは斉藤幹夫氏という一個人だ。資本力のない農家でも、創意工夫で収益を高めることが可能――。斉藤氏の植物工場はそれを体現している。
写真:斉藤農園の温室内
斉藤農園の温室内。一面にミツバが植えられたプールベンチが並ぶ(写真:大槻純一、以下同)
写真:水と肥料が入ったプールベンチに浮かべたウレタンボードで苗を育てる
水と肥料が入ったプールベンチにウレタンボードを浮かべて苗を育てる
 30度近くまで気温が上がった6月14日。ニンジン畑に囲まれた温室の中にはむわっとした熱気がこもっている。暑さの中、ペットボトルを片手に数人の女性が額に汗を光らせてきびきびと立ち働いていた。東京から小一時間。千葉県船橋市にある斉藤農園である。
 この斉藤農園、2000坪の温室でミツバを水耕栽培している。1日当たりの出荷量は700~800ケース。ミツバ農家としては大きな部類だろう。
 水耕ミツバは以下のような手順で栽培される。まず、種子を水洗し、吸水させた後に冷蔵庫に入れて低温処理する。ウレタンボードに処理した種子をまき、10~14日ほど置く。その後、栽培パネルに定植し、水と肥料が入ったプールベンチに浮かべる。そのまま、溶液の入ったベンチの中でミツバを育成。季節によって異なるが、25~30日後に出荷となる。

他を圧倒する「ミツバの18期作」を実現

 栽培方法は温室で水耕ミツバ栽培を手がけるほかの生産者と変わらない。ただ、斉藤氏がほかの農家と違うのは、圧倒的な生産性である。一般的なミツバ農家が年10回程度、ミツバを生産するところ、斉藤氏は最大で年18回、ミツバを作る。回転率は倍近くも違うから驚きだ。
 「ガソリン代や電気代、農業用資材。いろんなコストが上がっている中、利益が出ているのは回転率が高いからでしょう」と園主の斉藤幹夫氏(56歳)は言う。圧倒的な回転率の差。それは、斉藤氏が独自に考案した生産システムによるところが大きい。斉藤氏の工夫。その1つは、独自開発した「移植機」の存在である。
 上述したように、ほとんどの生産者は定植から出荷まで、溶液の入ったプールベンチに苗を植えたウレタンボードを浮かべたままだ。
 それに対して斉藤氏は2段階の手順を取る。定植の段階では120の穴(「8×15列」)が開いたウレタンボードで苗を育てる。そして、10~14日後、120穴パネルから64穴パネル(「8×8列」)に移し替える(動画をご覧ください)。
 初期の育苗段階では、穴の密度が高い120穴パネルを使う方が数多くの苗を育てられるため効率的だ。ただ、ある程度生育が進むと、120穴パネルでは穴の間隔が狭すぎて生育に悪影響を与えてしまう。そのため、途中で穴の間隔が広いウレタンボードに移し替える必要があるが、実際は手作業でやらなければならず手間とコストがかかる。斉藤氏は、この移植を自動的に行う機械を独自に開発した。